安全登山

安全登山と皆軽く言っているが、では安全に登山するためにはどういうことに注意し、どうしたらよいのかという具体策となると無理をしないと言うような抽象的な答えしか出ない。そこで、すこしでも具体的になるように過去のケースを引き合いに出しながら述べてみようと思う。私は安全登山するためにとして次の3つに分けてみた。

① 計画するに当って   (P プラン)

② 山行(登山)に当って (D ドゥ)

③ 実施後に当って    (C チェック)

<①> まず計画するに当って安全を考えるということは誰でもやっている。しか    しながらそれでも毎年事故が起き、計画が問題と批判される。確かに事故の多くはその計画の甘さによって引き起こされるのは間違いない。では事故の心配がない計画はというとそれはありえない。このくらい気をつければということで良いのではないだろうか?計画する人それぞれその考え方が違うので会としては安全基準を作り、それを出来るだけ守るように指示徹底してはと思う。

イ.時期の問題  いくら言っても計画者がピンと来なくて甘くなるのが時期。昨年5月2日岩手山(2038m)山頂近くで岡山県の夫婦が凍死した。この日は低気圧の影響で、みぞれ混じりの風雨であった。原因は軽装であったことであるが、山頂はどのくらいの気温になるか甘くみていたからである。5月のゴールデンウィーク頃は桜も終わり新緑が始まって平地ではポカポカ陽気である。そのため東北の2000mの山頂がみぞれになることもあるということをどうしても忘れさせていまう。まして、この夫婦は岡山からでとても暖かい地域に住んでいたから「みぞれ」などは思いもつかなかったのかもしれない。同じ時期、東北の2000mは岡山では3000mの山(実際は無い)と同じようなものである。また、気温は100m高くなるごとに0.55℃(通常は0.6℃としている)逓減する。盛岡が15℃なら頂上は10~12℃下がり3~5℃、盛岡が10℃なら氷点下になることもある。岡山の平地で言えば厳冬であろう。大ざっぱに言えば1000mでは1ヶ月、2000mでは2ヶ月平地とずれた気候と思わなければならない。計画する者はこうしたことを念頭に時期を考える必要がある。

ロ.服装の問題  上記の夫婦ももっと寒さ対策をしていれば、もしかして助かったかもしれない。計画する者は常に万が一のことを考え、寒さ対策を考え指示する必要がある。荷物が重くなるからと言って軽装で登ることは死につながる。軽装でないと登れない人はレベルダウンすべきである。

ハ.気象の問題  30年以上前、会社の仲間と剱岳から欅平に行った時、予想に反して台風が早く来てしまい、黒部峡谷を下山中に大雨、強風で大変な思いをした。沖縄に台風が来ていたが1500km離れているので50時間(その時のスピードは時速30km)約2日あるため大丈夫だろうと。しかし急にスピードを上げ磁束60kmで接近したため25時間約1日で来てしまった。この時の教訓“台風や低気圧のスピードは変わることを前提に計画を立てる必要がある”数年前1人で北海道に行った時十勝岳で3人のグループに会った。この3人は翌日から道東3山に行くと言うので台風が接近しているから止めたらと忠告をしたのだが“せっかく会社の休みを取り、飛行機や宿を取ったのだから”と強行した。翌々日、道東で3人遭難のニュースを聞きもしやあの3人かと思ったが名前が違っていた。地元の人は“本州から来る人はせっかく来たのだから強引に登る。危険だ!”と言っている。私たちも気をつけなければならない。山の天気は変わり易い。又、東北やアルプスでは夏でも“みぞれ”が降る場合もある。低気圧が接近しているのに強引に登るということは、危険に接近しているということでもある。山は逃げない。又、天気のよい時に来ようという心の余裕が欲しいものである。気象で注意しなければならないのは、体感温度である。風が吹くと実際の温度より2~3℃低く感じる。山の上では風があるのが当たり前。つまり予想より寒いと思って間違いない。もうひとつ注意しなければならないのは“雷”である。特に夏アルプス等高山では午後にたびたび出会う。岩稜の尾根では逃げ場がない。避けるためには早立ちし午後2時頃までに宿泊地に着くという計画を立てるべきで、慣れてない中高年登山者ほど山小屋で朝ゆっくり食事し9時頃出発している。歩くのが遅い中高年は逆に若い登山者より早立ちすべきだ。朝食は食べないで、明るくなったらすぐ    に出発。6時前には出たい。山小屋ではおにぎりも作ってくれる。

二.体調の問題  どんなベテランでも体調の悪い時はどうしようもない。例え待ちに待った山行であっても他のメンバーに迷惑をかける可能性があるのだから辞退すべきである。企画者も心を鬼にして諭す必要がある。1人のわがままのためグループ全体を危険にさらすことはあってはならない。体調万全であっても変調をきたすのが山の常である。山行前と山行中の体調の良くない者に対する企画者の接し方は全く逆が当然である。

ホ.コース選定の問題  ほとんどの山に登山コースは複数ある。百名山の中では幌尻岳・高妻山・開門岳等がコースひとつと言われているくらいである。そしてコースによってはコースタイムに大きな違いがある。例えば金峰山は瑞牆山山荘から登るのと大弛峠から登るのとでは2時間半くらいの差がある。ガイドブックによっては一つのコースしか解説されてないので山と高原地図等によっていろいろなコースを調べその違いを知る必要がある。それは万が一の時のエスケープコースとして使うためである。また、いろいろな解説書があるがコースタイムの違いがあることも知っておかねばならない。山行報告を基にどの本が一番自分達のペースに合っているか知っておくとよい。

ヘ.標高差と累積標高差の問題    開門岳や富士山は標高差と累積標高差がほとんど同じであるが、違いがあるのが普通である。そして差があればあるほどハードと思わなければならない。高妻山や庚申山からの皇海山はアップダウンが多く予想以上にハードである。上り下りの多い山は精神的にも肉体的にもつらいので初心者には不向きである。企画者はレベルの判断に注意をする必要がある。

ト.交通手段と安全対策の問題    当会は主にマイカーを交通手段としているが交通の安全があって初めて安全登山となる。幸い創設以来9年事故もなくマイカー利用の不安は今のところない。しかし、安心している時に事故というものは起きがちであり常に気を引き締めていなければならない。早朝3時、4時出発となるとドライバーは寝不足になりがち、交代運転は随時必要。車提供者は無理しがちであるが居眠り運転による事故を防ぐためにも交代すべきである。出来れば会で一台くらい8~10人乗りのワゴン車を所有していれば非常に便利である。大人数が乗れれば一人当たりの交通費が安くなるだけでなく、交代するドライバーの心配も少なくなる。ここでバス利用のメリットとデメリットを述べてみたい。メリットは大勢で楽しいし、ドライバーの負担もない。デメリットは雨天でも行くようになるし、登山道を大勢で延々と歩くのは甚だ迷惑である。(当会のバスハイクのように分散登山すべきである)最も問題なのは風呂である。大勢がどっと一度に入るので他の客のひんしゅくを買う。バスハイクはマイクロバスが限度であろう。ワゴン車を持っている人からレンタカー会社の料金の半分くらいを払って借りるのはどうであろうか。

 

 

                 つくばハイキングクラブ 横田重夫